自説醸造学 3
3. 醸造の生物化学
醸造の基本工程は、でんぷん → 糖 → アルコール であることはすでに述べました。
この変化は、化学変化です。目的の化学変化を起こさせて、それを上手に制御することが醸造になるわけです。
3.1. ビールの醸造
麦芽 酵母菌
でんぷん →→→→→→→ 糖 →→→→→→→ アルコール
3.1.1 麦芽のはたらき
麦芽は、文字どおり麦の芽です。実が発芽するときには、アミラーゼという酵素ができます。このアミラーゼの働きによって、麦のでんぷんを糖に変えるわけです。
植物は、発芽の段階では、まだ光合成が行えないから、アミラーゼにより種子の中のでんぷんを糖に変えます。これによって成長のためのエネルギーを得ているわけです。
3.1.2 酵母菌のはたらき
酵母菌(ビール酵母)の働きによって、糖をエチルアルコールと二酸化炭素に変えます。
酵母菌は、通常は酸素呼吸を行いますが、酸素のない状態では、無気呼吸をおこないます。このときの反応式は、次のとおりです。
C6H12O6 → 2 C2H5OH + 2 CO2
ぶどう糖 エチルアルコール 二酸化炭素
この段階では、
・無気呼吸を行わせるために、酸素を供給しないこと
・酵母菌の活動に適した温度を、保つこと
・他の菌が増えないように、滅菌をすること
が重要です。
もちろん、エチルアルコールが酔いのもと、二酸化炭素が泡になります。
ホップを加えるのは、ビールに苦みを与えることと、保存料の2つの目的があります。 *1
酵母菌のはたらきによってエタノールをつくるまでは、基本的にビールの場合と同じです。ビールのに相当する液のことを、ウオッシュ(wash)と言います。
次に、ウオッシュをエタノールと水の沸点の違いを利用して、蒸留します。蒸留によって得られた、アルコール濃度の高い液体が、モルト・ウイスキーです。
サントリー白州蒸溜所の蒸留塔
モルト・ウイスキーを樽に詰めて、最低3年(から15年)の間、熟成します。この間に、樽の成分がとけ込み、ウイスキーに香りと、琥珀の色を与えます。
3.3. 日本酒の醸造
3.4. ワインの醸造
*1: 冷蔵庫のない時代に、すでにビールがありました。紀元前3000年。